ルネサス エレクトロニクス(以下ルネサス)は,AI機能を内蔵するMPUとしてRZ/V2Nを発表した.昨年発売されたRZ/V2Hと同様,独自のAIアクセラレータDRP-AIを内蔵したことで,単位電力当たりのAI性能は10TOPS/Wである.独自の枝刈り技術注1によって最大15TOPSのAI性能を実現している.

注1:枝刈りとは,AIの推論処理の中で計算の一部を省略し,メモリ使用量の削減や実質的な演算性能を向上させる技術.


 RZ/VシリーズのMPUのうちミッドレンジにあたるものであり,1~10TOPSというAIの市場トレンドに合わせたAI処理性能を持っている.RZ/V2Hと同じ14nmプロセスで製造され,幾つかの機能を削減したことでコストは半分程度となっている.
 RZ/V2Nの追加によって,ハイエンドのRZ/V2H(最大80TOPS)からローエンドのRZ/V2L(0.5TOPS)までRZ/Vシリーズのラインアップが出揃った.
 量産と発売は,2025年3月19日から開始する.LSIのパッケージ面積は15mm角であり,RZ/V2Hに比べ38%小型化した.RZ/V2H同様に,高いAI性能と低消費電力を両立したことで,発熱が抑制され冷却ファンを省略したシステムも構築できる.

▲RZ/V2Hとの差

 昨年発売されたハイエンド版のMPUであるRZ/V2Hとの主な違いは次の通りである.

・Cortex-Rは搭載されない

・DRPは1ユニット(RZ/V2Hは2ユニット)
・AI性能:最大80TOPS → 最大15TOPS

 AI性能がRZ/V2Hと比べて低い理由は,次の通りである.

・DRP-AI3のMACの規模が半分になった
・メモリコントローラが1つになり帯域が狭くなった(RZ/V2Hは2つ)

▲ターゲット・アプリケーション

 商業施設における混雑・滞留解析を行うAIカメラ,生産ラインでの外観検査を行う産業用カメラ,運転者の状態を監視するドライバ・モニタリングシステムなどといったアプリケーションでビジョンAIを容易に導入できる.

●2カメラによる画像処理が可能

 Cortex-A55(Arm)を4コア,Cortex-M33を1コア搭載する.それに加えてMali-C55(Arm)のISPも搭載した.
 MIPIカメラ・インターフェースを2チャネル搭載し,2つのカメラを接続できる.

▲2つ使って精度を上げる

 カメラ1つの場合と比較して,空間認識性能が向上し,人の動線解析や転倒検知などを高精度に実現できる.

▲異なる対象を1つのMPUで処理

 2つのカメラを使って異なる場所を撮影することで,駐車場の台数監視とナンバプレート認識などを1チップで実現できる.

●開発用ボードとサンプルアプリ

 50種類以上のユースケースに対応する各種AIアプリケーションが,AI Applications and AI SDK(GitHub)として提供される.これにより,AIに関する深い知見がないユーザでも,AIアプリケーションを早期に評価・開発できる.
 ルネサス製評価ボードやソフトウェア開発環境に加え,RZ/V2Nを搭載したSoMボードやシングルボード・コンピュータおよびカメラ・モジュールなどがパートナ企業から提供される予定である.

●アプリ例としてAIカメラを準備

 ルネサスは工場,公共施設,商業施設などさまざまな用途に対応できるAIダッシュボードカメラを開発した.RZ/V2Nとパワー・マネジメントIC,リアルタイム・クロックICなどで構成されており,AIカメラ・システムのリファレンスとして活用できる.設計検証済みなので,ユーザによる設計のリスクを低減し,市場投入までの時間を短縮できる(1)

●開発の流れに大きな変更はなし

 RZ/V2Nに対応した開発ツールが発売と同時にリリースされるが,AI機能とペリフェラルはRZ/V2Hに搭載されたものと共通であり,アプリケーション開発の流れに大きな変更はない.そのため,RZ/V2HとRZ/V2N間のマイグレーション・コストは低い.ただしパッケージおよびピン配置は異なるため,ボードは別々のものが必要となる.

参考文献

(1)ウィニングコンビネーション

https://www.renesas.com/win

(2)RZ/V2Nの詳細
https://www.renesas.com/rzv2n

(3)リリース

https://www.renesas.com/ja/about/newsroom/renesas-extends-mid-class-ai-processor-line-rzv2n-integrating-drp-ai-accelerator-smart-factories-and

コメントを残す